物忘れが多い
物忘れが多い
物忘れが多くなってくると、認知症かと心配になる方が多くいらっしゃいます。
加齢による物忘れは生理的健忘といわれ、アルツハイマー型認知症が代表的な病的健忘とは区別しなければいけません。生理的健忘で忘れてしまうものは、人の名前などの一般的な知識がほとんどですが、病的健忘の場合、本人が体験した出来事自体を忘れてしまいます。生理的健忘でも体験した出来事を忘れることはありますが、一部であり、全体を忘れることはなく、日常生活自体も支援なしで可能です。学習能力も維持されていて、意欲があるような方は認知症とはいえないと思います。
また、CTやMRIを撮影した後の患者様に「私は認知症じゃないですか?」とよく聞かれますが、画像だけで認知症と診断することは困難です。確かに当院の脳ドックでもAIを用いて脳や海馬の萎縮を評価するVSRAD(ブイエスラド)やBrainSuite(ブレインスイート)を導入していますが、それだけで認知症と診断しているわけではありません。正常とはいえないが認知症とも診断できない状態のことを認知症の前駆状態を意味する軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)というようになりましたが、このMCIのうちに生活習慣を改善したり治療を開始したりすることにより、症状の改善や海馬体積の増大が報告されるようになったため、認知症が心配な方は脳ドックを受けて、ご自身の脳の状態を確認してみることをお勧めします。
認知症とは、一度正常に達した認知機能が持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態といわれており、問診と認知機能検査が診断には重要となります。認知症と診断後に治療可能な正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫、脳腫瘍などの治療可能な認知症を除外したり、認知症の種類を鑑別したりする目的でCTやMRIを撮影します。
日本人で最も多い認知症で、1907年にドイツのアロイス・アルツハイマー博士によって報告され、その名がつきました。脳にアミロイドβやタウ蛋白という特殊なたんぱく質が沈着し、それにより正常な神経細胞が破壊されることで発症すると考えられています。
記憶障害がまず出現し、大事な約束を忘れてしまう、会話の流れを思い出せなくなる、注意力が散漫になるなどの症状がみられるようになり、本人・家族ともに物忘れが多いと気付きますが、明らかな認知機能の低下はなく、日常生活も自立しています。
進行すると、迷子になる、判断力が低下する、お金の支払いなどを間違う、人格が変化するなどの症状が見られるようになり、日常生活に支障をきたし始めます。多くの方が、この段階でアルツハイマー型認知症と診断されます。
さらに進行すると、記憶障害が悪化、家族や友人を認識できなくなる、着替えなどができなくなる、幻覚・妄想などが認められるようになります。
最終的にはコミュニケーションをとることができなくなり、言語機能や身体機能も低下し、寝たきり状態となってしまいます。
治療には、コリンエステラーゼ阻害薬のドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンやNMDA受容体拮抗薬のメマンチンによる薬物療法が以前より行われています。
アルツハイマー病による軽度認知障害と軽度のアルツハイマー型認知症に対して承認されたレケンビ(レカネマブ)は、これまでの薬とは効果が異なり、直接アミロイドβを取り除くことによりアルツハイマー病の進行が遅くなることが期待されています。
レビー小体型認知症は、レビー小体と呼ばれる特定のタンパク質が脳内に蓄積することによって引き起こされます。
初期の認知力低下は、見当識障害(いつ、どこがわからなくなる)、会話での理解力低下などが主体で、物忘れ症状は目立たないことがあり、日時によって症状が良くなったり悪くなったりすることが特徴です。また、「知らない人がいる」といった幻視が夜間に多く見られ、体が硬くなり動きづらくなる・手が震える・歩き始めると急に止まれないといったパーキンソン症状、便秘や尿失禁・起立性低血圧などの自律神経障害、悪夢を見て暴れるなどの睡眠時の行動異常などが認められるようになります。他の認知症と比較して進行が早いといわれています。
治療法は、根本的治療はなく、対症療法が主体となります。抗精神病薬による精神症状のコントロールを行うこともありますが、過敏に反応することもあるため、少量より時間をかけて様子を見なければなりません。抗パーキンソン病薬で運動症状の改善が得られることもありますが、逆に精神症状を増悪させることもあるため慎重に投与する必要があります。アルツハイマー型認知症治療薬のアリセプトが効果的な場合もあります。
前頭側頭葉変性症は、初老期に発症し、前頭葉や側頭葉を中心とする神経細胞の変性により、人格や行動の変化、言語障害などが緩徐に進行することを特徴とする疾患です。
人格や行動の変化の具体例としては、社会的に不適切な行動(万引きなど)、礼儀やマナーがなくなる、周囲の目を気にしない、衝動的で分別がないといった脱抑制、無関心・無気力、同じ行動や言動を繰り返す、共感・感情移入ができなくなる、過食、甘いものを好むようになるなどの嗜好の変化が挙げられます。
言語障害では、物の名前が言えなくなったり、複数の物品から指示されたものを指すことができなくなったりします。発語量が減少し、流暢な会話ができなくなっていきます。
レビー小体型認知症と同様にパーキンソン症状が見られたり、筋力が低下したりすることにより転倒が多くなります。
根本的な治療法はありませんが、抗うつ病のSSRIが行動異常の緩和に有効だとの報告があります。
血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が起きて、その後遺症として認知症になるものです。脳血管障害によって突然認知症を発症したり、無症候性脳梗塞(かくれ脳梗塞)がたくさんあることで徐々に認知症が現れたりする場合もあります。
理解力や判断力は保たれ人格はしっかりしているように見えても、記憶力が低下しているというような「まだら認知症」もみられます。
脳血管障害を引き起こす原因となる、高血圧、脂質異常症、糖尿病、心臓病などの生活習慣病を患っていることが多いことも特徴です。
頭蓋内に脳脊髄液が溜まり、脳が圧迫されることにより、認知症、歩行障害、尿失禁などの症状が出る病気です。特発性といって原因を特定できないものとくも膜下出血や髄膜炎などの後に発症する続発性に分類されます。
続発性の場合は、先行する病気があるため診断は容易ですが、特発性の場合、加齢による症状と間違われ、診断されて治療を受けられる方は全体の1割程度との報告もあります。
歩行障害は、膝が上がりにくく、すり足になる、歩幅が小さく、小刻みになる、膝が外に開いてガニ股になって歩くといったことが特徴です。歩行障害が最も早く出現するといわれており、治療により改善が得やすい症状といわれています。
認知力低下としては、集中力がなくなり、趣味などをしなくなる、意欲・自発性が低下し、一日中ぼーっとしているといった症状が見られることが多いですが、進行するまで認知力低下はあまり目立たないこともあります。
トイレが非常に近くなり、歩行障害もあるため間に合わず失禁してしまうこともあります。
MRIなどの画像診断で、正常圧水頭症が強く疑われた場合は、腰椎穿刺を行って脳脊髄液を排出することにより症状が改善するかをみる髄液排出試験を行うことがあります。
治療は、脳脊髄液を腹腔などに排出するための管を体内に埋め込む手術を行います。
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